今回はオリンピックバーチャルシリーズの紹介と今後eスポーツはどのようにオリンピックに向き合っていくべきなのかを考察しました。
【YouTube】eスポーツはオリンピック競技となるのか!?
はじめて
突然ですが「オリンピックバーチャルシリーズ」というものをご存じですか?
2021年5月上旬~6月下旬に開催される国際オリンピック委員会(IOC)が主催のeスポーツイベントです。
eスポーツがオリンピックを意識する流れは以前からありましたが、このイベントはあまり浸透していません。因みにもう始まっています。
そこで今回はこのイベントの紹介と今後eスポーツのオリンピックとの向き合い方を考察していきます。
オリンピック・バーチャルシリーズ
まずはオリンピックバーチャルシリーズの概要を紹介していきます。
- 開催時期:2021年5月13日~6月23日
- 競技種目
野球:『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』
自転車競技:『Zwift』
セーリング:『Virtual Regatta』
モータースポーツ:『グランツーリスモ』
ボート:オープンフォーマット
こうした競技種目にはIOCやゲームパブリッシャーだけでなく、各競技の国際スポーツ連盟も提携しています。その他にも世界屈指のeスポーツイベント会社であるDreamHackもマーケティングや制作として携わっています。
IOC会長のトーマスバッハ氏は、開催の目的をデジタルなオリンピック体験を通じて、若い層にもスポーツに関心をもって貰うことにあるとしています。
そして一番正確に認識して欲しいのは、今回からeスポーツがオリンピック競技として認められたという訳ではないことです。
今回のイベントが好評であれば認められる可能性もあり得ますが、あくまで今回のイベントはIOCが中心となりオリンピックに関心を集めるためのものです。
残念ながらこうした思惑には暗雲が立ち込めています。
特に告知に問題を抱えています。イベント公式のSNSやホームページがなく、各ゲームパブリッシャーやオリンピックの公式サイトで情報発信を行っているので、イベントの存在がほとんど知られていません。また、大会配信がどのプラットフォームを使って行われるのかもはっきりしていません。なかなか見えてこないところが多いイベントになっています。次がなくなる可能性もあるので、しっかりして欲しいところです。
タイトルが選出された経緯考察
次に、皆さんも気になっているであろう「何故この5種目になったのか」という点に触れていきます。
これはeスポーツ特有の性質である「暴力描写のあるゲームタイトルの存在」と「ゲームタイトルに所有者がいること」の二つが密接に関わってきます。
eスポーツと言われるとMOBAやFPSを思い浮かべる人が多いでしょう。ですが、今回のゲームタイトルはスポーツ系で統一されています。
その背景には今回オリンピックバーチャルシリーズの開催にGOサインをだしたトーマスバッハ会長などが、特に「暴力描写のあるタイトル」がオリンピックに関わることを嫌っていた経緯があります。
一方でスポーツ系のゲームタイトルに対しては、オリンピック競技になることにも好印象を示しています。
また、スポーツ系のゲームタイトルに統一されたことに納得は出来ても、ピックアップされたゲームタイトルに疑問を持つ人も多いのでないでしょうか。
特に世界的も遊ばれているFIFAシリーズやNBA 2Kシリーズなどサッカーやバスケットボールのゲームタイトルが存在せず、オリンピック正式種目から外れたことがある野球やオリンピック競技になっていないモータースポーツが選ばれるのに疑問を持つのは当然でしょう。
これもeスポーツの難しさです。どんなに人気のあるゲームタイトルであっても、所有者との交渉、一つの競技に複数タイトルが競合している場合の利権争いなどスムーズに決定できない問題があります。
このようなしがらみを考慮した結果、今回のタイトル選出になったのかもしれませんね。
各タイトルの紹介
次に各ゲームタイトルの紹介をします。
eBASEBALLパワフルプロ野球2020
まずは野球部門の『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』からです。
こちらはPS4版とSwitch版で競技が変わります。
前者は通常のチーム戦で、後者がホームランを競うモノになります。予選と決勝の2段階に分けて開催され、決勝戦のみ生配信されます。
参加条件は日本、韓国、チャイニーズタイペイに住んでいることが条件に含まれています。
ルール事態は明快で分かりやすいですが、参加可能の地域が狭すぎるので、オリンピックでやる必要があるのかは疑問です。pingの影響でラグが発生するのを防ぐために限定せざるを得なかったと可能性もあります。
2021年5月24日(月)から予選が始まっている。
Zwift
二つ目は自転車部門の『Zwift』です。
こちらは完全なゲームではありません。バーチャルサイクリングと呼ばれています。実際に自転車をこいでいる動きがバーチャル画面に反映され、一方でバーチャルのコース上でのアップダウンなどの負荷は現実に反映されるようになっています。プレイをするためには実際に体を動かす必要があります。このタイトルは以前にも多くの大会が開かれているのであまり心配はしなくても大丈夫でしょう。ただ、eスポーツなのかと言われれば少し微妙なところです。スポーツの方が近いように感じます。
レースは6月2日開催、残りの期間はリアル自転車競技のメダリストからレクチャーを受けられるという企画など行う予定。
Virtual Regatta
三つ目はセーリング部門の『Virtual Regatta』です。
こちらはリアル志向のシュミレーションゲームです。PCとモバイルアプリでプレイすることができます。コースはリオデジャネイロから東京というオリンピック特別ルートとなっています。現状レースの模様が配信されるのかは明らかになっていません。オリンピック公式サイトには特に参加条件も書かれていません。競技はオフショアモードとインショアモードの二つで行われます。インショアモードは予選決勝の二段階で行われます。
グランツーリスモ
四つ目はモータースポーツ部門の『グランツーリスモ』です。
こちらはレースゲームです。PS4とPS5でプレイできます。予選と決勝の2段階になっており、予選は5月13日から始まっています。予選はタイムアタックを行い、その上位16名が決勝レースで競うというものになっています。決勝戦だけ配信される模様です。参加条件は世界62の国と地域のプレイヤーであることだけです。ただ、決勝戦だけは18歳以上である必要があります。最も大会フォーマットがしっかりしていて、参加可能地域も広いので、一番期待できそうです。
予選は終了しており、6月23日に決勝が行われる。
ボート競技
五つ目はボート部門ですが、こちらはオープンフォーマットと表記されるだけで具体にどんなモノを使って、どのような競技となるのかなどが、現状一切不明です。
ただ、オリンピック公式サイトには「自宅のリビングルームやジムのローイングマシン、もちろん水上からでも挑戦できる。」と表記されていたので、「Zwift」と同じように体を実際に動かして、その動きがバーチャル上に反映されるタイプだと推測できます。
この5タイトルを見ていくと6月23日の最終日がどのタイトルも山場になっているようです。
どこまで盛り上がるのか、そしてどこの国民が一番関心を持っているのかは非常に気になるところです。一方で告知が明らかに不十分であること、もし参加者が多く集まった場合にサーバーは耐えきれるのかといった不安も残ります。
eスポーツとオリンピックの今後の関わり方
最後に今後のeスポーツとオリンピックの関わり方について考察していきたいと思います。
まずは今回のイベントに関してです。
粗削りの部分はありますが、試みとしてはeスポーツを大きく前進させるものだと思っています。ただ先程触れたように、オリンピック競技にするとなると課題は多いと思います。
特にeスポーツの特性である「ゲームタイトルに所有者がいること」をクリアするのが難しいと考えられます。所有者がいるということは当然利権も大きく絡んできます。サッカータイトルのFIFAとウイニングイレブンのように一つの競技で大きなタイトルが競合している場合には、どちらを正式種目にするかを決めるのは非常に難しいと思います。この辺りを整備が必要になってくるので、オリンピック競技にするには時間がかかると思います。
ゲームタイトルの選定に関しては、IOCの方向性を考えると、ほぼスポーツタイトルのみで進んでいくと予想されます。
あとは位置づけの問題ですが、これに関してはまだはっきりしていません。個人的な意見としましては、オリンピックの子要素になるよりは、パラリンピックと同じように別枠で大会を開いた方がいいと思います。何故なら今以上にeスポーツがスポーツに準ずることが求められ、常に比較され続けることが目に見えるからです。eスポーツにはeスポーツの可能性があると思うので、あくまで別枠の方がそれがよく見えるような気がするからです。
次にeスポーツがオリンピックをどのように捉えるべきか、意見を述べていきます。
現状スポーツ系のゲームタイトルはIOC側からも好印象なので、オリンピック入りを目指すのは、間違っていないように思えます。ですが、それ以外の系統のタイトルがオリンピックに寄せる必要は全くないと思っています。eスポーツはスポーツと名乗ってしまったが故に、スポーツに囚われがちですが、本質的には「競技ゲーム」です。ゲームにはゲームの良さがあると思うので、個々のゲームの強みを伸ばしていった方が良いと思います。出来ることなら、「Competitive Game World Cup」のような形で、MOBAやFPSなどのゲームタイトルをいくつかピックアップして、国別の対抗戦などをやって欲しいですね。そっちの方が見てみたいです。これも「ゲームタイトルに所有者がいること」の壁が立ちはだかっているんですけどね。
終わりに
eスポーツがオリンピックの促進イベントとして採用されたことは、大きな一歩だと思いますので、今後のオリンピックとの関わり方には注目ですね。