今回はeスポーツと深く関わることで、はじめて見えてきた「eスポーツの課題」を「eスポーツの捉え方」と「eスポーツの一般化」の2つの観点で紹介し、どうあるべきなのかを考察した。
【YouTube】スポーツに拘る必要はない!? 敷居が高い!? これからもeスポーツが生き残っていくためには!!
はじめに
おかげ様で「esports DOGA」が本格的に始動して約1年が経った。
こうした中、以前よりもeスポーツと深く関わることで、eスポーツの課題や違和感がはじめて見えてきた。今回は「eスポーツの捉え方」と「eスポーツの一般化」の観点から課題を紹介し、解決にはどのようなアプローチが必要なのかを考察した。
eスポーツの捉え方
まずは「eスポーツの捉え方」について触れていく。
この「捉え方」において重要になってくるのは、eスポーツとスポーツの関係性である。
「eスポーツはスポーツなのか?問題」に白黒つけることが重要なのではない。eスポーツがスポーツを名乗ってしまったがゆえに、どこまでスポーツに寄せる必要があるのか?どこまでの独自性を保つべきなのか?が重要なのだ。
スポーツとは?
まずは「スポーツ」がどのように定義されており、それを構成する重要要素は何であるかを明確にしよう。
ブリタニカ国際大百科事典
競争と遊戯性をもつ広義の運動競技の総称。激しい身体活動や練習の要素を含む。語源はラテン語 deportareからフランス語 desporterに転じ,さらに英語 sportとなった。本来,人間が楽しみと,よりよき生のためにみずから求め自発的に行なう身体活動であり,ルールを設けそのなかで自由な能力の発揮と挑戦を試み,最善を尽くしてフェアプレーに終始することを目標にする
ブリタニカ国際大百科事典
デジタル大辞泉
楽しみを求めたり、勝敗を競ったりする目的で行われる身体運動の総称。陸上競技・水上競技・球技・格闘技などの競技スポーツのほか、レクリエーションとして行われるものも含む。
デジタル大辞泉
スポーツの特徴
- 競争的特徴と遊戯的特徴を持つ
- 運動競技(身体活動)である
今回取り上げた2つ以外の辞典でも、「スポーツ」の重要な要素として挙げられるのは、この2点である。よってこの2点をスポーツの要素として考える。
eスポーツはスポーツなのか?
筆者は「eスポーツがスポーツであるのか」という問題自体、あまり重要視する必要はないと考えている。
それでも今回の話を進めていくに当たり、何かしらの結論を出すことが適当であるため個人的な見解を示すこととした。
スポーツであるかどうかの考察には、先述した「競争的特徴と遊戯的特徴を持つ」と「運動競技(身体活動)である」の2点を押さえることが重要だ。
競争的特徴と遊戯的特徴
この点は確実に満たしていると考えている。
世界的にeスポーツとして認知されているタイトルの多くには、劇的で熾烈な競争が存在している。その試合を見れば、繰り出される技巧の数々はスポーツにも劣らない練習量が裏付けされていることが分かるだろう。よって競争的特徴は満たしていると言える。
「ゲーム」を利用している時点で、遊戯的特徴においては言わずもがなである。
運動競技(身体活動)
これが体を動かす「運動」であることに重きを置くならば、eスポーツはスポーツではないだろう。
ただ、ブリタニカ国際大百科事典にある「よりよき生のためにみずから求め自発的に行なう身体活動」を「運動」と捉えるならば、eスポーツはスポーツと捉えても問題はない。
なぜなら、eスポーツの行動の源泉も「よりよき生のため」にゲームを「より楽しもう、より上手くなろう」として行われる自発的な身体行動だと考えられるからだ。
確かに一般的なスポーツよりも体を動かすことは少ないが、「登山」などの競争的要素が少ないものや「モータースポーツ」など機械を媒介して行うものもスポーツである。
このことを考えると、やはり「スポーツ」の核となる要素は「ただ体を動かす」よりも「よりよき生のためにみずから求め自発的に行なうこと」であり、eスポーツはスポーツであると考えて問題はないだろう。
スポーツを名乗る必要性
上記のように考えれば「eスポーツ」は「スポーツ」であると考えられるが、「スポーツ」であることを前面に押し出す必要はなかった。更に言えば「eスポーツ」を名乗ることで得たメリットよりも、背負ったデメリットの方が遥かに大きいと考えている。
特に日本でその傾向が顕著だ。
eスポーツがマスメディアで報道されることを考えてほしい。「スポーツの新たな形」として取り扱われることが多くないだろうか?eスポーツがどう面白いか?という「中身」ではなく、eスポーツがスポーツとしてどうか?という「形式」ばかりが注目されたことを示している。
その結果「スポーツであるか」という点ばかり議論され、世界的なコンテンツであるのにも関わらずシューティングは健全でないとして敬遠される風潮や、「eスポーツ」であることにこだわりゲームやイベントを無理に競技化する流れも生まれた。
つまり、eスポーツを名乗った結果、スポーツの形式をあまりにも意識することで、非常に窮屈になってしまったのだ。
「競技性」「よりよき生のためにみずから求め自発的に行なう身体活動」「フェアプレイ」などの要点をある程度押さえたならば、スポーツの型にはまるのではなく、eスポーツの魅力が最大限に発揮できる独自の路線に切り替えていく方が良いと思う。
eスポーツの拡充
残念ながら我々には過去を改変することはできないので、これからどのように舵を切っていくかを考えるべきである。
筆者は「eスポーツ」の意味の拡充が必要であると考える。これが現状のスポーツに引っ張られ過ぎなeスポーツからの脱却に繋がるはずだ。
「ゲームを使って更なる楽しみを生み出すこと」
これをeスポーツと定義したい。それには、現状の競技シーンはもちろんのこと、RTA、ゲームを使った動画投稿や配信、ゲームを使ったイベントも含まれる。こうした広い定義によって自由な発想や創意工夫が生まれ、新たな楽しみ方ができると思うからだ。
確かにこれでは競技感が薄れる。それでも現在のスポーツの型にはまることを求められる窮屈なeスポーツよりは随分ましだろう。
また、スポーツやeスポーツは「エンターテインメント」が大前提だ。ならばその使命はプレイヤー(行動した人)が楽しみを享受でき、視聴者や別のプレイヤーに楽しみを提供することではないだろうか。
現在の窮屈な状況下で最小限のことしかできないなら、多少意味を拡張してもより多くの人が楽しめるものであった方が良いと思う。もちろん現在の競技シーンを無くす必要は全くない。
こうした先にあるのが、スポーツの形式に囚われることのないeスポーツであり、一般化されたeスポーツなのではないだろうか。
「eスポーツの一般化」に求められるもの
ビジネスの面においても普及の面においても、一番の課題は「eスポーツの一般化」である。
以前と比べると遥かに広がったが、それでも内輪で楽しんでいる感は拭えない。また、ビジネスにおいては利益の大部分が広告収入やスポンサー収入であり、「より多くの人を集める」ことが求められている。
そう考えると、よりeスポーツのこれからの成長には、カジュアル層に向けた「一般化」は欠かせないと言える。
それには先述した「eスポーツの意味の拡充」も必要だが、eスポーツに対するアプローチも同時に変えていく必要がある。
eスポーツ=プロの風潮
まず必要なのは「eスポーツ=プロ」という認識を変えることだ。
野球を考えてほしい。プロ野球も草野球も総じて「野球」であり、かつ「スポーツ」であるという認識の人が多いはずだ。
一方eスポーツはどうだろうか。プロの試合は間違いなくeスポーツだが、我々がApex LegendsやVALORANTをプレイすることはeスポーツといえるだろうか。なかなか首を縦に振るのは難しいだろう。
ただ、競技であることがスポーツの要素であり、プロである必要はないのだ。ならば首を縦に振ることに躊躇などないはずだ。だが戸惑う。このことがeスポーツの一般化ができていない最たる例だ。
この現状を生み出したのは、我々関係者があまりにもプロにフォーカスを当てすぎたからだろう。公式大会などのプロの試合を中心に盛り上がりが成り立っているのは事実であり、プロシーンへの力を抜けと言っている訳ではない。
ただ、eスポーツの敷居は高くなった。ガチ層とカジュアル層の間で「eスポーツ」いう壁が生まれてしまったのだ。
コミュニティ大会であっても多くの人が参加に至らない理由には、「自分は上手くないから」と思ってしまうことが関係している。こうしたeスポーツの敷居の高さは、プロの大会の潜在的視聴者や、プロになれる可能性を持つ人材の喪失にも繋がる恐れがある。
だからこそ、我々は一般層(カジュアル層)にも目も向け、コミュニティ大会などのカジュアルな大会を盛り上げていく必要がある。こうした活動をしなければ、eスポーツがこれ以上広がることはないと考えている。
最近のゲーム視聴傾向から見えてくるもの
コロナショックの影響化で、ゲーム動画や配信の視聴者数が世界的に大幅に伸びた。もちろんeスポーツも例外ではない。
だが、2019年の配信視聴者数ランキングのトップ10はほぼeスポーツタイトルによって構成されていたのにも関わらず、2020年はその割合を減らしている。上位を安定してキープしているのは「League of Legends」と「Fortnite」ぐらいだ。
その1つの理由は、新規層をはじめとする一部の視聴者層が、ガチガチのeスポーツタイトルよりもカジュアルなタイトルを好むようになっているからだ。
Twitchにおける視聴者数ランキングに「Fall Guys」「Among us」「Phasmophobia」「Party Animals」などが並ぶようになったことからも分かるだろう。
多様なeスポーツの選択肢
ならば、先程触れたeスポーツタイトルを使ったカジュアル層向けの大会やイベントなどの試みだけでなく、eスポーツタイトルではないタイトルを使ったイベントや、ちょっと変わった趣向の遊び方を使ったイベントなどを開くことが、一般層の取り込み、しいてはeスポーツの広がりには必要ではないだろうか。これはビジネスの可能性を広げることにも効果的だ。
「ポケモンの色違いを誰が一番最初に捕まえられるか選手権」とか「PUBGでバギーを使って誰が一番早くErangelを一周できるか」でもいいはずだ。
eスポーツの大会やイベントに、eスポーツタイトルを使わなければならないなどいうルールはない。ゲームを使って「楽しさ」を共有できることに意味があるはずだ。
既存のeスポーツの概念に縛られない大会やイベント作りが、eスポーツの一般化には必要なのだ。
終わりに
eスポーツが一部の人の楽しみではなく、ゲームに関わる多くの人の楽しみになることを望む。そのために「esports DOGA」も尽力していきたい。