今回は「ウマ娘」が大ヒットした要因を多角的に読み取り、モバイルゲーム市場全体にどのような影響を及ぼすのか考察していきます。
【YouTube】月間売上100億円以上!! 何故「ウマ娘」は人気となったのか。大ヒットの理由を解明!!!
はじめに
近頃、最も注目されているゲームは間違いなく「ウマ娘」でしょう。なんと3月の月間売上では100億を突破し、親会社サイバーエージェントの時価総額は過去最高の1兆円超えを記録しました。
では、なぜここまで人気となったのか?
今回はその要因を多角的に読み取り、モバイルゲーム市場全体にどのような影響を及ぼすのか考察していきます。
人口が13億以上の中国のタイトルと1億弱の日本のタイトルが世界の売上で渡り合っていることを考えると、日本人の課金額のヤバさが際立つね。
まずは「ウマ娘」がヒットした要因をリリース時期、ゲームジャンル、技術、動画投稿・配信規約の4つの観点から考察していきます。次に今回のバズから読み取れるモバイルゲームの潮流をプレイ時間と技術の2点で紹介していきます。
なぜ「ウマ娘」はヒットしたのか
まずはヒットの要因をリリース時期、ゲームジャンル、技術、動画投稿・配信規約の4点から考察していきます。
リリース時期
はじめにリリース時期から触れていきます。
リリースの延期がもたらしたもの
当初『ウマ娘 プリティーダービー』は、2018年冬にリリースが予定されていた。この時期には、武豊騎手が出演するテレビCMも放送されていたので、印象に残っている人も多いのではないでしょうか。
そんなリリース間近となった矢先、更なるクオリティ上昇のため、リリースの延期が伝えられます。かなり騒然とした出来事だったのを覚えています。
それから約2年の月日を経て、2021年2月24日に配信されるに至りました。プロジェクトの発表から考えると約5年越しのリリースとなっています。
リリースの延期はせっかく集まった人を一度返してしまうことになるので、通常であればプラスに働くことは少ないものです。
しかし、またパターンは少し異なりますが、8年ぶりの続編となったシン・エヴァンゲリオンに多くの期待が寄せられたことを考えると、大幅な延期は逆に消費者の期待に繋がるのかもしれないとも考えられます。もちろん寝かせればよいというモノではなく、当然期待に答える必要もあります。
絶妙なリリース日
要した時間だけでなく、リリース日が2021年の2月24日であったことも今回の人気には欠かせない要素だと思います。
なぜなら当初のリリースが予定されていた2018年冬は、まだ日本産のモバイルゲームが群雄割拠の時代で、多くのユーザーを集めるタイトルが乱立していました。特にFate/Grand Orderやモンスターストライクの勢いが強かった時代です。
その為、多くのゲームに関心のある層は何かしらのゲームを既にプレイしていたので、この時期に新規タイトルが参入し、ユーザーを獲得するのは難しかったと考えられます。
しかし、こうした日本産のモバイルゲームは2018年以降徐々に勢いを失っていきました。これに関しては後程プレイ時間の変化を触れる時に詳しく説明しますが、海外産のヒットタイトルが多く生まれたこと、漫画アプリや動画配信サービスに一部ユーザーが流れたことが要因として考えられています。
この間にモバイルゲームの在り方も徐々に変わっていきました。幸運にも変化したモバイルゲームの在り方がウマ娘のゲーム性にマッチしたのです。だからこそ2021年のリリースが追い風になったと言えるのです。
また、ゲーム全体に目を向けてみても2021年の2月のリリースは功を奏したと言えます。コロナショックの影響によって2020年は、室内でも盛り上がれるゲーム市場が全体的に伸びていましたが、2020年12月~2021年2月にかけてはAmong Us、Fall Guys、パワプロのようにゲーム市場を席巻する程の大ヒットと呼べる作品は登場しませんでした。新作の数自体も例年に比べると少なかった印象です。
そんな対抗馬が少ない状況でリリースできたのも、多くの人に注目されるに至った要因と考えられます。これらの状況を考えても2021年2月24日のリリースは絶好のタイミングだったと言えるのです。
ゲームジャンル
次にゲームジャンルについて触れていきます。
ウマ娘のゲームジャンルは育成シミュレーションです。簡単に説明すると複数のステータスをプレイヤーが自由に選択し上げていき、イベントでスキルを獲得し、それらを駆使してレースに挑むというゲームシステムです。
既存のタイトルだとパワプロが一番近いと思います。2020年の夏にはパワプロが非常に人気であったことを考えると日本人は育成シミュレーションを好む傾向があると考えてもいいのではないでしょうか。
一方で類似するタイトルがある時点で、ゲームジャンルとしては、真新しいものではないことが分かります。
ではユーザーは何に真新しさを感じたのか?
それは育成シミュレーションというジャンルがハード機器やPC対応のタイトルで存在していても、モバイルゲームでは珍しかったからです。
中国産のヒットタイトルは特にこうした戦略を用いる傾向が強いです。
モバイル版のバトルロワイヤルとして荒野行動、非対称対戦サバイバルゲームとして第五人格、オープンワールド系アクションRPGとしての原神などから読み取れます。
確かにハードやPCなどに対応していたジャンルをモバイルでもプレイできるようにするには技術は必要ですが、意外と狙い目の戦略なのではないでしょうか。
ネガティブな意見の少なさ
また、特異な美少女擬人化と、ギャンブルである競馬に抵抗を感じる人も多いテーマでありながら、アプリリリースの初動でネガティブな意見が少なかったことも大ヒットには関係していると考えられます。
なぜ、ウマ娘はネガティブな意見が広がらなかったのか?
美少女擬人化には賛否両論あるものの、競馬の史実に対するリスペクトと改変が絶妙なバランスで保たれていると評価されたからです。実際にプレイをしてみても競馬あってのウマ娘であって、リスペクトを節々から感じました。そして改変の部分でも違和感や下手なお涙頂戴の演出が少なく、絶妙な「もしもの世界」を展開できているのが好印象です。
また2年前に先行して放映されたアニメが、物珍しいコンテンツに向けられる批判を既に受け切っていたので、完全新規のタイトルよりはネガティブな意見を受けることが少なかったことも大きくプラスに働いたと考えられます。
ただ本当に絶妙なバランスの上で成り立っているので、今後少しでも路線を間違えると崩壊する危険性はあると思います。
技術
次に技術について触れていきます。
多く寄せられた期待に応えることができたのは、間違いなく技術的な面での完成度の高さからでしょう。最近の日本産のモバイルゲームの中でも間違いなく技術が頭一つ飛び抜けていると言えます。
特に凄いと感じるのは3D技術とカメラワークです。3D技術に関してはアイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージなどの開発の経験が活きているのか、造形と動きが共に非常に滑らかです。
今まで多くの3Dを使用したゲームに感じた、動きの不自然さや質感の違和感をほとんど感じませんでした。こうした3Dの技術が重要か所だけに使われるのではなく、ほぼすべての要素が3Dで進行していくことからも出来の良さが分かります。
また、カメラワークもライブとレースの両方で非常に斬新で見ごたえのあるものになっています。
特にレースにおいては競馬独特の視点に加え、F1のような視点も取り入れているので、迫力が生まれています。昔の開発段階の映像を比較して見ると、レース映像に関してはカメラワークによる魅せ方が改善に大きく貢献していることが分かります。
ここ最近のモバイルゲームの技術は圧倒的に中国産のものに押されていたので、日本もまだ捨てたものではないと思わせてくれる素晴らしい技術の進歩だと思います。
動画・配信規約
最後に動画投稿・配信規約について触れていきます。
Cygamesの動画・ライブ配信に関する規約の寛容さも今回のヒットには大きく影響していると考えられます。
ゲームの中身を動画や配信に乗せられてしまうとネタバレにつながるリスクになりますが、大手配信者がゲームをプレイしている様子は再生数で数十万回、同時視聴者数で数万人と集めるので広告効果も見込めます。
これは非常に重要で難しいトレードオフだと言えます。
今回のウマ娘に関しては規約を緩めたことが、多くの人への認知に繋がったのでプラスと言えるでしょう。視聴者の心理は「内容が分かったから見るだけでいいや」というよりも「自分もやってみたい」という思いが上回ったことを意味します。これは育成シミュレーションであることも大きく影響していると思います。
2020年からの傾向でいうと、Steamなどでは世界的に見ても多く配信や動画投稿がされるタイトル程売れている印象です。
こればかりはゲームジャンルが大きく影響するので、一概に規約を緩めた方が良いとは思いませんが、広告効果の方がネタバレのリスクを上回っているように感じます。
また、2020年12月~2021年2月に販売された他タイトルが、有力なものも結構あったのにも関わらず、予想よりも伸びなかった印象です。その多くが結構厳しい規約だったので、なおさらそのように思います。
今後のモバイルゲームに与える影響
続いて、ウマ娘のヒットが今後のモバイルゲームに与える影響をプレイ時間の変化と技術の2点から考察していきます。
プレイ時間
まずはプレイ時間についてです。
リリース時期でも触れましたが、モバイルゲームの潮流は2018年以降大きく変わっていきました。ここでキーになってくるのがプレイ時間です。2018年以前のモバイルゲームは「暇つぶし」として遊ばれることが多い存在でした。多くのタイトルの1回のプレイ時間は多くても10分前後というのが主流でした。
しかし、2017年末の荒野行動の登場以来、1プレイが10数分~30分未満の比較的プレイ時間が長いタイトルが伸び始めてきました。第五人格やPUBG Mobileなどもその例です。
この結果、モバイルゲームも他のハードやPC同様にがっつりとゲームをプレイする手段となってきたのです。更に流れは加速し、2019年~2020年以降はPUBG mobileや原神が世界的にも人気となっているように1プレイ時間の長いモバイルタイトルが覇権を握るようになってきました。
ただ、これだけならば1プレイが短いゲームも住み分けができたでしょう。
しかし、「暇つぶし」が一番の目的として考えられていたプレイ時間が短いタイトルは、別な角度からそのパイを減らしていきました。
それは漫画アプリや動画配信サービスの台頭です。電車の中の記憶を呼び起こして欲しいのですが、数年前はスマートフォンでパズドラやモンストをプレイしている光景をよく見たと思います。一方で最近は漫画アプリやAmazon Primeなどを開いている光景をよく目にすると思います。特に漫画アプリはストア全体の売上ランキングも日々上位に食い込んでいます。
このようにスキマ時間の埋めるのは別にゲームでなくてもいいという風潮になったのです。これが日本産のモバイルゲームが最近伸び悩んでいた大きな要因です。
その中でのウマ娘の大ヒットは今後のモバイルゲーム市場に間違いなく影響をもたらすと考えられます。なぜなら従来の日本産のモバイルゲームの要素を残しつつも、プレイ時間に関しては1プレイ当たり平均的に20~30分と流行りのスタイルを取り入れた新しい形でヒットしたからです。
従来の1プレイが長いタイトルは、基本的に中国産のPvPをメインとしたタイトルがほとんどでした。日本産のeスポーツタイトルが少ないように、日本は基本的にPvPのタイトル作りが苦手な傾向にあります。
この状況を考えると日本の土俵といえるストーリーやキャラクターの絡みをメインとしたタイトルでも当たる可能性が生まれたのは間違いなく追い風です。中国産のゲームでありながらも日本の要素を取り入れている原神が当たっていることを見てもこういった傾向は強まっていくと思われます。
そんなウマ娘や原神の傾向は、モバイルゲームが買い切りのゲームに近づいているとも考えられます。今後モバイルゲームもハードやPC同様に本格的なゲームがプレイできるようになってくると予想されます。
技術
次に技術についてです。
ヒットの要因として挙げたウマ娘の3Dモデルとカメラワークの技術は、現在のモバイルゲームの中では間違いなくトップクラスです。一度技術のレベルが上がってしまうと消費者は同じレベルを期待してしまうので、今後業界全体としての技術は上昇せざるを得ない状況になると思います。
このこと自体は素晴らしいことだと思いますが、モバイルゲームの消費文化には少し合っていないという問題が浮上します。
現在ゲームの消費速度は異次元に加速しています。そうした中で消費者を飽きさせず、留めるためには、間断なくゲーム内イベントを打ち込む必要があります。
そこで技術力が上がってしまうとゲーム内イベントの更新速度はどうしても遅くなっていきます。すると最初は多くのユーザーを抱えていてもすぐに去って行ってしまう状況に陥ります。実際ウマ娘も今のところは好調ですが、そのきらいがあるのでどこまで持つかは微妙なところです。ただプレイをしていて次の布石になるようなものは感じるので、5月、6月に大きな動きがあれば、しばらく安泰といえるでしょう。
ですので、今後のゲームタイトルはより技術と更新頻度のバランスが重要になってくると思われます。
終わりに
今回のヒットはモバイルゲーム史におけるターニングポイントといっても過言ではないので、今後の新作タイトルやヒットタイトル、そしてウマ娘の行く末には注目していきたいと思います。
他にもウマ娘がリアルの競馬や他の競馬ゲームの売上にどのように影響していくのかを見ていきたいです。
Twitterでは大阪杯や桜花賞に今回から参加した旨のツイートが多く散見され、同大会の売上は共に前年度比を30%以上上回っています。
また、予約の段階でWinning Post 9 2021の売上がSteamで国内トップであることを考えると多少影響はありそうですね。