ASSASSIN’S CREED VALHALLAの一件から、ゲーム内表現の規制に関心を持った人は多いだろう。そこで今回は日本の審査機構である「CERO」の実態や審査基準に関して特集した。
「ASSASSIN’S CREED VALHALLA」ゲーム内表現問題
2020年11月、日本でも人気の高い「Assassin’s Creed」 シリーズの最新作である「ASSASSIN’S CREED VALHALLA」でゲーム内の表現に関して物議を醸している。
当初はアジア版として、ローカライズされた本作において、流血描写がカットされている旨に関して、事前の発表がなかった事にプレイヤーの不満が高まっていた。
しかし、その後の釈明が不十分な対応であったため、今度は日本のゲームレーティング機構である「CERO」を巻き込んだ「ゲームにおける表現の規制へ対する問題」へと発展してしまった。
以下が「UBI」と「CERO」の発表を時系列順にまとめたものである。
UBI側の発表
当初予定していた修正内容では日本で発売することができない可能性が高いことが分かりました。そこで、関係機関との協議の上、日本で発売可能となる表現修正を再度検討した結果、流血表現の削除も修正項目に含まれることとなりました。
公式サイト
CERO側の発表
11月18日、ユービーアイソフト社がUBIBLOGにおいて「『アサシン クリード ヴァルハラ』のゲーム内表現に関して」という文書を発表されております。本機構では、この件について同社から一切ご連絡も協議のお申し出もいただいておらず無関係ですので、その旨お知らせいたします。
公式サイト
UBIの再度発表
先日公開した流血表現の修正に関しまして調査を進めた結果、弊社内の問題であることが判明いたしました。関係各所及びユーザーの皆様には、心よりお詫びを申し上げます。
公式サイト
結果として、今回の件にCEROは直接関係しておらず、UBI側の問題であった。
UBI側が日本でも販売できるように、自分達でCEROの規制に引っ掛かりそうな部分を削除したのか?それとも単なるバグなのか?原因は未だ明らかになっていない。
ある記事では、流血表現ありの状態でも審査を通過していたと言われている。
また、当初の問題であった「何故事前に規制に関して発表をしなかったのか」という部分は依然として語られていない。
ただ、シナリオやゲーム性に関しては評価は高い。今回不満の声が多いのも、いい作品だけに惜しいと感じる人が多いからかもしれない。
CEROの審査ってどういう風になっているの?
直接的な関与はなかったものの、今回の件をきっかけにゲームの表現に関する規制に関して興味を持った人は多くいるはずだ。
そこで今回は、世界的にも厳しい日本のゲームレーティング機構である「CERO」の実態や審査基準になどに触れていく。
CERO概要
正式名称は「特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構」というNPO法人である。
主な活動内容は販売されるゲームソフトのを審査することである。そしてゲームをする人なら誰でも見たことがある「A,B,C,D,Z」の5段階で対象年齢を決める。義務付けられてはいないが、日本でゲームを販売する場合には、CEROを通した審査がほぼ必須な状況になっている。
意外と知らないCEROの適応範囲
- CEROの審査結果に法的拘束力はなく、あくまでも目安となっている。
- 日本国内で販売されるゲームのみ適応
- ゲームセンターにある様な業務用ゲーム機は対象外
審査対象となるゲーム
株式会社セガゲームス | ドリームキャスト |
株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント | プレイステーション プレイステーション2 プレイステーション・ポータブル(goを含む) プレイステーション3 プレイステーション・ヴィータ プレイステーション4 プレイステーション5 |
任天堂株式会社 | ニンテンドウ64 ニンテンドーゲームキューブ ゲームボーイ ゲームボーイアドバンス ニンテンドーDS ニンテンドー3DS Newニンテンドー3DS Wii WiiU Nintendo Switch |
株式会社バンダイナムコエンターテインメント | ワンダースワン |
日本マイクロソフト株式会社 | Xbox Xbox 360 Xbox One Xbox Series X|S |
パソコンメーカー各社 | パーソナルコンピュータ (対応OS:Windows各種、MAC各種) |
携帯電話メーカー各社 | 携帯電話・スマートフォン等 (対応OS:Android、iOS、WindowsPhone等) |
クラウドゲーム・サービス提供各社 | クラウドゲーム・サービス |
プレイステーション、Nintendo Switch、Xboxなど、現在日本で多くの人に遊ばれているハード機器は基本的に審査の対象になっている。それに加えてPCゲーム、モバイルゲーム、クラウドゲームも一応対象となっている。
ただ、ダウンロードが主流となっている今、「App Store」「Steam」「Epic Games Store」など海外のオンラインストアを通した販売に関しては、非常に曖昧な状況になっている。もしくは、それぞれのストアが対象年齢に対する独自のルールを定めている。
レーティングの対象となる表現項目
対象となる表現項目
〔性表現系〕 ●キス ●抱擁 ●下着の露出 ●性行為 ●裸体 ●性的なものを想起させる表現 ●不倫 ●排泄 ●性風俗業 ●水着・コスチューム | 〔暴力表現〕 ●出血描写 ●身体の分離・欠損描写 ●死体描写 ●殺傷 ●恐怖 ●対戦格闘・ケンカ描写 |
〔反社会的行為表現系〕 ●犯罪描写 ●麻薬等薬物 ●虐待 ●非合法な飲酒及び喫煙 ●非合法なギャンブル ●近親姦・性犯罪等 ●売春・買春 ●自殺・自傷 ●人身売買等 | 〔言語・思想関連表現系〕 ●言語関連の不適切な描写 ●思想関連の不適切な描写 |
主に「性表現系」「暴力表現」「反社会的行為表現系」「言語・思想関連表現系」の4つの分野に分かれている。
また、これらの項目には上限が決められている(どの様に限界値が決められているのかは非公開)。今回話題になっている「ASSASSIN’S CREED VALHALLA」の場合は「暴力表現」の部分が争点となってくる。
表現度合
上記の項目に該当していた場合、以下の観点で度合いを審査し、レーティングに反映していく。
- 「直接的」or「間接的」
- 「肯定的」or「否定的」
- 「必然的」「自然的」であるか、否か。
- テーマとの関連で「主題的」or「背景的」か。
- 一般人の観点からみて不合理に嫌悪感を与えないか、反社会的ではないか、扇情的ではないか等が考慮される。
表に出ている情報ではこのような判断基準になっており、かなり曖昧である。
個人的には必要な描写なのか、過剰な描写なのかをゲームの内容を考慮する場合、「必然的」「自然的」であるか、否か。が一番重要な判断材料ではないかと考える。
禁止表現
上限以上の過剰な表現は「禁止表現」とされ、該当するゲームにはレーティングが与えないようになっている。
その禁止表現は以下のようになっている。
性表現に関して
1.性器及び局部(恥毛を含む)表現
2.性行為または性行為に関連する抱擁・愛撫等の表現
3.性的欲求を促進、または性的刺激を与えることを目的としている放尿、排泄等の表現
暴力表現に関して
1.極端に残虐な印象を与える出血表現。
2.極端に残虐な印象を与える身体分離・欠損表現。
3.極端に残虐な印象を与える死体表現。
4.極端に残虐な印象を与える殺傷表現。
5.極端に残虐な印象を与える恐怖。
反社会的行為表現に関して
1.テーマ・コンセプト上必然性の無い大量殺人・暴行を目的としている表現
2.麻薬・向精神薬等の規制薬物で、医療目的等の本来の目的以外に不正に使用されることを肯定する表現。
3.虐待を肯定する前提での虐待シーン表現。
4. 犯罪を賞賛、助長することを肯定する表現。
5.売春・買春等を肯定する表現、児童買春等の表現。
6.近親姦の表現、強姦及びこれに準ずる意に反する性的行為等の直接的な表現、及び肯定する表現。
7.未成年による飲酒・喫煙表現を明確に推奨している表現。
8.自殺・自傷を肯定・推奨している表現。
9.不倫を肯定している表現。
10. 人身売買等を推奨している表現。
言語・思想関連表現に関して
1.一般に放送禁止用語・差別用語・不快用語に当たる言葉については、直接並びに間接的な表現や比喩も含み、中傷や蔑称に当たる用語の使用を禁止する。常識の範囲内で、使用する場面及び前後の成り行きにより必要と認められる場合はこの限りではない。
2.差別を助長する表現・用語
3.実在する人物・国・国旗・人種・民族・宗教・思想・政治団体を敵視または蔑視する表現で、なおかつ一方的に非難・中傷する表現。
テーマ、コンセプト、システム
必然性の無い「性」、「暴力」、「反社会的行為」、「言語・思想」の過度な取り扱い。
補足
1.上記の各禁止事項以外にも、社会情勢の変化等により新たに禁止事項と判断し、レーティングを与えない場合がある。
2.なお、上記の禁止表現の文言については、「Z」区分の新設に伴い、その趣旨に適合するように解釈するものとする。
多少表現は変更されているものの、「GTA5」が許されているので、基本的にはレーティングが付与されないことは無いと思われる。
審査方法
メーカーから受けたソフトの倫理調査を、複数の審査員が上記のレーティングの対象となる表現項目に照らし合わせて審査するような仕組みとなっている。
審査員になるための条件は以下に通りである。
審査員の条件
公式サイトで募集を行っている。※現在は締め切っている
- 審査員は、広く一般から募集した20才代~60才代までの様々な職業の男女で構成されていて、事前にCEROによるトレーニングを受けています。
- 審査員は登録制で、審査内容について守秘義務があります。
- 審査員にはゲーム業界と関連のある方は採用しておりません。
- 審査においては、審査員の性別や年代などの属性に偏りがないように配慮しています。
ゲームの表現規制に関する個人的意見
レーティング「Z」は機能しているのか?
「Z」として上限の年齢制限を設定しているならば差別、犯罪行為の助長、洗脳や扇動する要素など販売してはいけない様な内容でない限り、「必然的」「自然的」であるか、否かを守れていれば「性表現」や「暴力表現」に関しては、現在ほど厳しく取り締まる必要はないと感じている。
現状の状態では「D」との差がほとんどなく、「Z」を作った意味をあまり感じないからだ。むしろ個人的には上記のように緩くした方が、売る側にも買う側にも責任が生まれ、「D」と「Z」の間の壁を意識させることが出来るのではないだろうか?