今回はゲーム業界における世界的大企業である「Tencent」を知るために、その影響力について日本と世界の2つの視点から特集する。
【YouTube】世界のゲーム業界の影の支配者「Tencent」を詳しく紹介!!
はじめに
ゲーム関連のニュースを追っていけば「Tencent」の文字を見ないことがない程に、「Tencent」はゲーム業界に大きな影響を与えている。
確かに「影響力がある」ということは理解している人も多いと思われるが、実際どれ程なのかピンと来る人は少ないだろう。
そこで今回は、まず「Tencent」が一体どんな企業であり、どれ程の影響力を持っているかを特集する。それを踏まえた上でどんな問題を抱えているかなどに触れる。
概要
簡単な成り立ち
- 設立:1998年
- 本拠地:中国深セン
- 他拠点:アムステルダム、バンコク、クアラルンプール、香港、台北、ソウル、東京、パロアルト
- CEO:馬化騰(創始者の1人)
事業内容
- コミュニケーションツール
例:WeChat、QQ - デジタルコンテンツ
例:Tencent Games - FinTech
例:WeChat Pay - ツール
例:Tencent Manager(セキュリティーソフト)、Tencent Map、QQ Browser
世界的コミュニケーションツールである「WeChat」を起点に多岐に渡ってサービスを展開している。
有名なゲームタイトル
- 伝説対決 -Arena of Valor-
- PUBG Mobile
- Call of Duty: Mobile
「Tencent」として開発しているゲームはモバイル版が多い印象だ。そして、モバイル版とは思えないほどクオリティーが高い。
海外のゲーム会社への投資
海外のゲーム会社に対する投資という点で「Tencent」の影響力に注目してみよう。
Riot Games
世界トップクラスのeスポーツタイトルである「League of Legends」や「VALORANT」を保持する「Riot Games」を完全子会社化している。
事実上、eスポーツにおいてトップクラスの力があることは間違いない。コロナショックの影響を受けても、これらのタイトルが比較的好調なところも凄い。
Epic Games
非常に多くのタイトルで使用されているゲームエンジン「Unreal Engine」や、「Fortnite」で有名な「Epic Games」の株式を40%保有している。CEOである「Tim Sweeney」に次ぐ保有率である。つまり発言力が非常に高いということだ。
ちなみに「Epic Games」への出資を決めた「SONY」の保有率は1.4%である。このことからも40%がいかに高い数値であるか分かるだろう。
Activision Blizzard
「Call of Duty」「Hearthstone」「Overwatch」など、ビッグタイトルを抱える世界最大規模のゲーム会社「Activision Blizzard」の5%の株式を保有しているとされている。
この提携の甲斐があってか、「Tencent」の子会社である「TiMi Studios」が「Call of Duty: Mobile」の開発を行っている。そしてそのCod: Mobileはモバイルタイトルでは稀なレベルで大ヒットした。
supercell
「クラッシュ・オブ・クラン」や「クラッシュ・ロワイヤル」で知られる「supercell」を84%の株式保有率によって子会社化している。
「supercell」をはじめとして、「Tencent」が北欧のゲーム会社に投資することがとても多い。
Bluehole
「Bluehole」は「PUBG」の開発として知られる「PUBG Corporation」の親会社である。「Tencent」は「Bluehole」の株式の11.5%保有している。
これによって「Tencent」は「PUBG Mobile」の開発と販売ができるようになった。
つまり初期バトルロワイヤルゲームの2台巨頭である「PUBG」と「Fortnite」の両方に影響力を持っているといえる。
Ubisoft Entertainment
「Rainbow Six Siege」や「ASSASSIN’S CREED」など、ビッグタイトルを数多く持つ「Ubisoft Entertainment」の株式の約5%を保有している。この保有率は株主の中で3番目に高い。
その他ゲーム企業
- Grinding Gear Games (80%)
代表作:Path of Exile - Frontier Developments (9%)
代表作:Planet Coaster - Kakao (13.5%)
代表作:Black Desert Online(黒い砂漠)、カカオトーク - Paradox Interactive (5%)
代表作:Hearts of Iron、Stellaris、Cities: Skylines(パブリッシャー)
国内のゲーム会社への投資
次に「Tencent」による日本国内のゲーム会社に対する投資について触れる。
PlatinumGames
「PlatinumGames」は「NieR:Automata」や「ベヨネッタ」などが代表作として挙げられる日本のゲーム会社である。具体的な額は不明だが「Tencent」からの出資を受けている。
個人的にも「PlatinumGames」「ATLUS」「フロム・ソフトウェア」の3社は近年特に力を付けていると感じており、「Tencent」の着眼点は非常に鋭いと思う。
この記事にもあるように、出資を受けたことによって経営体制が変わることはないようだ。
またPlatinumGamesの狙いは、経営基盤の強化による海外展開と、自社でのパブリッシングにあるとしている。
マーベラス
マーベラスは「牧場物語」などで知られるゲーム会社である。2020年5月25日には「Tencent」との資本提携を締結することが決定された。
この結果「Tencent」が持ち株比率20%でマーベラスの筆頭株主となった。
マーベラス側の狙いは、IPの強化と海外進出にあるとされている。
ゲーム関連企業への投資
ここでは、ゲームに間接的に関係する企業(動画配信サービスなど)への投資について紹介する。
Huya
中国のライブ配信プラットフォーム最大手の1つである。特にeスポーツの配信を積極的に行っている。
「Tencent」は約37%の株式を保有しており、議決権は50%以上持っている。
Douyu
「ニコニコ動画」と似たような弾幕コメントを採用している、中国のライブ配信プラットフォームの大手である。「Tencent」は現在約38%の株式を保有しており、筆頭株主となっている。
日本でも勢力を拡大している「Mildom」の親会社である。
「Huya」と「Douyu」を2つ合わせると中国のゲームストリーミングプラットフォームの80%を占めると言われている。
この記事によると、動画配信サービスの最大手である「Huya」と「Douyu」に影響力を持つ「Tencent」は2020年8月に両社の合併案を提示した。もし実現すれば、「Tencent」の株式保有率は50%を超え、議決権は70%を超えるとされている。
つまり「Tencent」は中国における動画配信サービス事業を手中に収めたといっても過言ではないのだ。
Discord
「Discord」は世界で2.5億人以上のユーザーに利用されており、ゲーマー間のコミュニケーションツールとしては世界的に主流である。
「Discord」は「Tencent」や他企業から合計1.5億ドルの資金提供を受けている。
近年日本でも知られてきた「5ch」と「Twitter」を足して2で割ったようなウェブサイトの「Reddit」も「Tencent」から3億ドルの投資を受けている。
ここでは頻繁にゲームに関する討論が行われている。
ゲーム関連以外の投資
「Tencent」はゲーム関連以外にも「Spotify」「Snapchat」「Tesla」などの企業にも投資している。
日本との関わり
更にここでは一歩踏み込んで、日本における「Tencent」の大きな動きについて触れる。
Mildom
日本で最近力を付けてきているライブ配信プラットフォームは「Mildom」であることは間違いないだろう。特にゲーム分野に力をいれており、名うてのゲーム実況者やプロゲーマーの多くに対して、引き抜きや囲い込みを行っている。eスポーツの大会配信も多く、「Apex Legends」や「VALORANT」の配信はよく目に留まる。
こうした配信者や大会が集まる背景には、他のプラットフォームよりも金払いが良いことが挙げられる。かなり潤沢な資金を投下していることが伺える。
そんな「Mildom」は「Tencent」が筆頭株主である「Douyu」と、「三井物産」によって運営されており、「Tencent」の影響力は大きいと考えられる。
「YouTube」が主流であるとはいえ、未だ不安定な日本のライブ配信市場に参入してくるのは非常に鋭い視点を持っているといえる。
Pokémon UNITE
2020年6月にポケモン版「League of Legends」として話題になった「ポケモン ユナイト」は「株式会社ポケモン」と「TiMi Studios」の共同開発だ。
この「TiMi Studios」は「Tencent」の子会社である。
MOBA市場が成熟していない日本で、子会社である「Riot Games」の「League of Legends」を筆頭に、MOBAのノウハウとポケモンブランドによって、市場を開拓するのは面白い動きといえる。
このように特にゲーム業界に関しては、日本でも「Tencent」が関わる機会が非常に増えている。
国際問題
「世界的影響力を持っていること」や「中国企業であること」によって、しばしば国際的な問題に巻き込まれている。
インド「PUBG Mobile」問題
インドをはじめとするアジア圏ではモバイルゲームが人気である。その中でも群を抜いて人気なのは「PUBG Mobile」である。「Faze Clan」などの大手eスポーツチームが参入するほどだ。この「PUBG Mobile」はインドでは「Tencent」によって配信されていた。
そんな「PUBG Mobile」だが、中印国境紛争の影響でインドでの配信が禁止された。同時期には中国企業が配信に関わるアプリの多くが配信禁止となった。ちなみに「TikTok」などは6月の時点で配信禁止されている。
「PUBG Mobile」側は、インドでは配信を「Tencent」から「PUBG Corporation」に変更すると発表したが、依然としてインドからの許可は下りていない。
Wechat アメリカ締め出し
中国企業によるアプリがアメリカで締め出される動きが強くなっている。世界的人気アプリ「TikTok」や「Tencent」のキラーコンテンツである「Wechat」の禁止をアメリカ政府が推し進めている。(現在は連邦地裁によって禁止を差し止めされている)
特に「Wechat」に関しては中国人の間では主流のコミュニケーションツールとして使われているため、連絡が取れなくなる恐れがあるとして、禁止に反対する声もあがっている。
米政府が Epic Games と Riot Games に情報提供を要求
「Tencent」とアメリカの取引禁止の問題において、ゲーム事業は対象外になったが、米政府が「Tencent」からの資金の流れがある「Epic Games」と「Riot Games」に対してセキュリティープロトコルに関する情報提供を求めていることが明らかになった。
なぜ禁止されるに至ったのか?
インドとアメリカはそれぞれ中国との問題を抱えているが、禁止にされる理由は基本的に同じである。
安全保障上の問題、つまり「ユーザーデータが中国企業を通じて中国政府に流れること」を阻止するためだと一般的には言われている。
だがどこまでが本当なのかは明らかにされておらず、アメリカに関しては「やり過ぎ」との意見もある。
終わりに
「Tencent」の影響が世界規模に広がっていることは理解していただけたと思う。
今後も「Tencent」とその投資先に注目する価値があるだろう。