今回は「Epic Games」と「Apple」「Google」間で起きている販売手数料の問題を特集する。
簡単な時系列、各プラットフォームの販売手数料、他の大企業の対応、Unreal Engineの問題などから、「Epic Games」の判断や今後の展開を考察する。
はじめに
強烈な印象を与える「1984年」のパロディームービーと共に「Epic Games」vs「App Store」&「Google Play」の販売手数料を巡った争いの火ぶたが切られた。
問題の概要
時系列
- 2020年8月13日、莫大な販売手数料に不満があった「Epic Games」は「Fortnite」内での課金システムにおいて、独自の課金システム(Epic Direct Payment)を導入した。これは「App Store」や「Google Play」を経由せずに安く課金できるシステムである。
- 2020年8月13日、「Apple」と「Google」は、「App Store」と「Google play」において、ガイドライン違反で「Fortnite」を削除した。
- 2020年8月14日、「Epic Games」が「1984年」のパロディームービーを公開。多くのSNSで一日中流れた。また「Apple」と「Google」に対して独占禁止法違反で訴訟を起こした。
- 2020年8月18日、「Apple」は2020年8月28日までに「Epic Games」が独自の課金システムを削除しない限り、開発者ツールである「Apple Developer Program」から削除する旨を公表した。
1~3まで、僅か1日の出来事である。
しかし、今回の問題は突然浮上したものではない。スポットライトが今回ほど当たらなかっただけであり、長年対立は続いていた。
vs Google
2018年にAndroid版が配信開始されてから2020年4月に至るまで、販売手数料を取られることを嫌って「Fortnite」のホームページからダウンロードする仕組みを取っていた。この場合はGoogle Playが一切関与していない為、収益から中抜きされることはない。
しかし、2020年4月には「Google Play」からも配信されることとなった。
vs Apple
こちらは非常に長く対立を続けている。iOS版はAndroid版と異なり、App Store以外からのダウンロード方法が推奨されていない為、「Epic Games」も従わざるを得なかった。
しかし黙って服従するわけではなく、2020年6月には「Spotify」や「楽天」がEUで起こした「Apple」が独占禁止法に抵触しているか否かの調査に、「Tinder」などで知られる「Match Group」と共に賛同している。
これを機にEUでの「Apple」への風当たりは強くなった。
問題となっている販売手数料とは?
App StoreとGoogle Playの場合
- 販売手数料は「有料アプリ」「アプリ内課金」「サブスクリプション」に発生する。
- 「App Store」や「Google Play」の場合、手数料として30%が「Apple」や「Google」に入る。
- サブスクリプションの場合、1年以上継続したユーザーが支払っている料金からは15%の手数料に減額。
- 例外として「物の販売」と「人的サービス」に関しては手数料を取っていない。マクドナルドのアプリ、タクシーアプリがこれに該当する。
ガイドライン
各社の販売手数料
- AppStore:30%
- Google Play:30%
- Steam:30% (売り上げが1000万ドル以上の場合は25%、5000万ドル以上の場合は20%)
- Epic Games Store:12%
「Epic Games」は自社でもゲームの販売を行っている。そこでの販売手数料は12%で他と比べると安い。ただ相対的に見れば安いが、12%が妥当かどうかは判断が分かれる。
また「Epic Games Store」で販売した場合、多くのタイトルで使われている「Unreal Engine」のロイヤリティが無料なので、開発者としてはありがたいストアになっている。
他のストアで販売する時は、100万ドル以上の粗収入がある場合、5%はロイヤリティとして「Epic Games」に支払う決まりとなっている。
※2020年5月13日以降
Steamとの争い
Epic Gamesは常に30%の販売手数料と戦っており、その矛先は「Steam」にも向いている。公式ガイドラインでも「Steam」を名指しで批判している。
独占タイトル
Epic Gamesは、自社開発のタイトルだけでなく、サードパーティーのタイトルも独占配信する路線をとっている。
手数料が12%であることや「Unreal Engine」を無料で使える点が、独占契約を結ぶに至った決め手だろう。この独占契約は突然決まることも多く、「Steam」ユーザーからは反感を買っていることも多々ある。「Metro Exodus」が販売2週間前に「Epic Games」のみの先行独占配信を告知された件はかなり炎上した。
- Borderlands 3 (半年間)
- Control (1年間)
- Detroit:Become Human (半年間)
- Maneater (1年間)
プレイヤーにとっては微妙な側面も・・・
「Epic Games Store」には微妙な側面がある。プレイヤーのレビューが無い、カート機能が無い、日本語が微妙、デフォルトでデスクトップに広告を表示してくるなど、個人的に気になる点が多い。
新興のストアゆえに機能が不十分なのは仕方無いのかもしれないが、デベロッパーフレンドリーだけではなく、プレイヤーフレンドリーでもあって欲しい。
ただ、時々ビッグタイトルが無料となるのはとてもうれしい。最近では、Borderlands 1・2やGTAVが無料だった。
Epic Games以外 vs Apple・Google
「Epic Games」以外にも高額な手数料に不満を持っている企業は多い。
課金に関するApp StoreとGoogle Playの原則
App Store
Appのコンテンツまたは機能(例:サブスクリプション、ゲーム内通貨、ゲームレベル、プレミアムコンテンツへのアクセス、フルバージョンの利用)は、App内課金を使用して解放する必要があります。コンテンツや機能を解放するため、ライセンスキー、拡張現実マーカー、QRコードなど、App独自の方法を用いることはできません。App内課金以外の方法で、ユーザーを何らかの購入に誘導するボタン、外部リンク、その他の機能をAppやメタデータに含めることはできません。
App Storeでは直接的な外部誘導は禁止されている。
Google Play
- デベロッパーは、Google Play からダウンロードされたゲーム内でプロダクトを提供する場合や、ゲーム コンテンツへのアクセス権を提供する場合、支払い方法として Google Play アプリ内課金を使用しなければなりません。
- デベロッパーは、Google Play からダウンロードされた別のカテゴリのアプリ内でプロダクトを提供する場合、支払い方法として Google Play アプリ内課金を使用しなければなりません。ただし、以下の場合を除きます。
- 物理的な商品のみの支払い
- そのアプリ以外で消費できるデジタル コンテンツに対する支払い(他の音楽プレーヤーで再生できる曲など)
Google Playでは外部誘導への記載は見当たらない。
Netflixの対策
「Netflix」も30%の販売手数料には不満を持っていて、2018年8月から両ストアでの課金やサブスクリプションは行っていない。だが収益を上げつつ、両ストアからアプリの削除もされていない。そこには巧妙な抜け道があった。
比較的分かりやすい所に「公式サイト」で登録してくださいというメッセージを表示している。またカスタマーサービスに連絡すると、アプリからは登録できないと案内される。
リンクやボタンなどの機能で誘導しているわけではないので違反とはならないのだ。
Spotifyの対策
Spotifyは特に30%の手数料に不満を持っている。2020年6月には楽天と共に、EUに「Apple」が独占禁止法に抵触しているかどうかの調査を要求したほどだ。
こちらは「Netflix」よりも分かりやすい形で課金の項目が下のカテゴリーにあるのにも関わらず、アプリからの課金はできないというメッセージが表示される。暗に「公式サイトで契約してください」と言っているのだ。
その他のアプリの対策
結局、開発者は苦しい
上記で挙げた2つのアプリがこの方法でも上手くいっているのは、共に業界大手だからだ。わざわざアプリをダウンロードしたのにも関わらず、公式サイトへ登録しにいかねばならないことを了承出来る程のブランド力や評価があるからできたことである。
それでもこの面倒な登録方法のために利用を諦めた人が一定数いるだろう。名も無き新興アプリなら同じ手法はとれない。
同業他社には大きなハンデ
同業他社に「Apple」が存在していた場合は厄介な問題となる。Spotify vs Apple Musicや、楽天Kobo vs Apple Booksのようなケースだ。
6月のSpotifyや楽天が起こした調査要求はこれが原因だと言われている、Apple以外の企業はiOS版を販売する時には30%の手数料を見越した値段設定にしなくてはならず、大きなハンデとなるからだ。
Unreal Engineが排除される可能性
話を「Epic Games」に戻そう。
「Apple」が切った「Apple Developer Programからの削除」というカードは「Epic Games」にとって致命的だ。
「Fortnite」は「Epic Games」ブランドを押し上げたが、長年支えてきたのは「Unreal Engine」だ。3Dモデルを使用できる点やマルチプラットフォームに対応しているという強みがあり、非常に多くのタイトルで使用されているゲームエンジンである。
もし「Epic Games」が「Apple Developer Program」から削除された場合、影響を受けるのは「Fornite」だけには留まらない。「Unreal Engine」を使用する全てのiOS版のタイトルが影響を受ける。具体的にどれ程の被害が出るのかに関する詳細な情報は公開されていないが、「Unreal Engine」を使い続ける場合、Apple製OSのアップデート前バージョンへの事前アクセスができない状況となる。つまり「Unreal Engine」を使った開発は事実上不可能となるのだ。
開発者の為に30%の手数料と戦っている「Epic Games」は、自身の行動によって皮肉にも開発者を人質に取られる事態に陥ったという訳だ。
筆者の見解
Epic Gamesは決して正義の味方ではない
「1984年」のパロディームービーを流し、自分たちが悪徳であるAppleからの救世主であるような宣伝をしているが、騙されてはいけない。
独自の課金システム導入からAppleに訴訟を起こすまでの期間が僅か1日だった。凝ったPVを用意し、訴訟の手はずも整えていた。AppleやGoogleが対抗措置に出ることは計算内であったと考えるのが妥当であろう。
それは、つまりモバイル版の「Fortnite」ユーザーの犠牲は織り込み済だったということだ。言い換えれば、ユーザーの利便性よりも手数料を優先したのだ。
結局のところ「Epic Games」も「Apple」も「Google」も自分達の利益の為に戦っているに過ぎないのだ。
どっちが本当のビッグブラザーなのか?
ゲーム内にまで企業間の対立を持ち込むのは如何なものだろうか?プレイヤーは純粋に楽しめるのだろうか?
もちろん「Fortnite」プレイヤーは「Epic Games」に対しては多少好意的だろう。そんな彼らにAppleが悪であるようなイメージを持ったムービーを流すことは、扇動と言っても過言ではない。
こうした世論の扇動や巧みなプロパガンダが、ビッグブラザーの手法であったことは「1984年」を読んでみれば分かるはずだ。個人的にはどっちがビッグブラザーなのかは分からない。
確かに「Apple」や「Google」の掲げる一律30%の手数料には問題があると思う。ただ純粋に「Epic Games」頑張れとはなれないのは、手段の汚さがあるからだ。
プラットフォーム手数料問題はアプリストアに留まらない
今回の件で一番意義があったと感じるのは、多くの人がプラットフォームにおける販売手数料が高く設定されていることに関心を持ったことだろう。
世界的に儲かっている企業は、巨大プラットフォームの手数料ビジネスで成功を収めている。GAFA (Google、Amazon、Facebook、Apple)を見れば分かるだろう。
ゲームに近いジャンルを例に挙げると、YouTube(Google)やTwitch(Amazon)における投げ銭は大体30%がプラットフォームに入る仕組みになっている。こちらも取りすぎである。
当然のことではあるがプラットフォームは巨大になればなるほど一般化するので、他者が割って入るのは難しい。すると独占状態が起き、手数料などの価格設定がプラットフォーム運営者の自由なものとなる。
ただ一概に手数料を取ることを否定はできない。巨大化すればその分管理費が膨大になるからだ。
予想される着地点は?
「Epic Games Store」と同じように12%の手数料まで下がることは正直難しいだろう。「Epic Games」が規約を破ったことが原因であり、「Apple」や「Google」はガイドライン通りの対応をしただけだからだ。
ただ「Epic Games」も多少の勝算があっての行動だと思う。個人的には「Steam」が採用しているような、売り上げに応じて手数料が変わる折衷案で決着して欲しい。